――そもそもになっちゃうんですけど、爆発っていうのはどういう現象なんですか。

 爆発というのは瞬間的に、つまり非常に短い時間でエネルギーが放出されるっていう現象。「非常に短い」というのは、平均的な時間スケールに比べて、たとえば1000分の1とか1万分の1ぐらいの間でエネルギーがパッと出されたときに爆発といいます。

――じゃあ仮に、原爆と同じエネルギーだとしても、それがゆっくりと徐々に放出されたら爆発は起こらないってことですか。

 ある一定の間隔でパッパとエネルギーが出ていくこともあるけど、トータルとしては原爆というか、星の爆発と同じくらいのものが、ゆっくり、星の一生ぐらいかかって放出されていく現象はあります。それは「風が吹き出す」という言い方をする。

 エネルギーの変化量は同じだとしても、それが爆発によって一気に、非連続的に起こるのか、ゆっくりだらだら変化するのか、という違いがあるわけです。放出される時間スケールによっていろんな差が出てくる。逆に言えば、いろんな現象があるけど、結局はエネルギーの出し方の違いでしょ、とも言えるわけです。

――出し方の差なんですね。一気に出すか、少しずつ出すか。

 それをより一般的に「変化」と考えると、爆発とはぜんぜん関係ない、生物の進化についても言えるわけ。進化というのが本当にいい言葉かどうか分からないけど、エボリューションですが、進化なのか、単なる変化なのか。

――進化というと価値が上がっていくように思いますね。

 そうすると、変化というのは価値は変わらない。だから、進化という言葉はどうしても生物がより高級なものに変わっていくというニュアンスがある。それが本当かどうかは分からないけど、より複雑なものに変わっていったというのは確かなんです。それを進化と言えば進化。より複雑さを増していったためですからね。

 しかしながら、一気に進化したのかどうか。サルから人間に変わるのでも、時間的にゆっくり変わったのか、ある段階からパッとこう

――突然変異

 突然変異みたいなものがあって、それで人間になったのか。その論争はずっと続いてるわけです。これはまさに、さっきの変化量の差でしょう。初めと終わりは分かっているけど、真ん中の状態、過程はわからない。化石をいろいろ調べると、連続的に変わってる場合と、非連続的に変わってる場合の両方がある。どういう生物がどんな変化をするかという「法則」はまだ分かってないんですね。

 だから単純に、時間的な変化の関数系としては、一気に変化する場合から連続的に変化する場合までさまざまなケースがあり得る、というふうに一般化する。物理屋っていうのはそうやって、なるべく一般化して、普遍的な現象として捉えたいわけです。

――なるほど。つまり、星の一生にしても、生物の進化にしても

 変化率の差だって見ればどっちも同じじゃないのって。

――おもしろいですねえ。

はじまりは点だった

――最近では、宇宙は膨張し続けているということが一般にも知られているように思うんですけど。膨張しているということは、逆に言うと、はじまりは今より小さかったということですか。

 宇宙のはじまりというのは一番難しい問題でね。

――そうですよね。

 いまでも完全な定説があるというわけでは無論ないんですが、最も自然に考えられるのは、宇宙が初め一点、非常に小さな点からはじまったという説です。で、非常に小さな世界の物理法則は何かといったら量子力学なんです。

――はい。

 量子力学には「ゼロ点振動」というのがあって、要するに完全に動かない世界はない。エネルギーがゼロ、たとえば温度がゼロの世界であっても、ミクロの世界で見ると必ず揺らいでる。それは量子論では必然的に起こることで、「量子揺らぎ」というんですけど、何で起こるのかと言われたら分かりませんと言わざるを得ない。

 じゃあ宇宙のはじまり、時間や空間のはじまりといっても、それは完全にゼロじゃなくて、ゼロの点を境にプラスとマイナスを行ったり来たりしている、揺らぎの状態で存在していたと考えられるわけ。空間がパッと現れて、すぐ消えて。時間が前に進んで、後ろへ進んで、また前へ進むとか。全体で見るとゼロなんだけどね。

 それから物質も、プラスの物質とマイナスの物質ができる。プラスとマイナスができて、また消えて、できて消えて。平均的にはゼロなんだけど、ゼロの周りにプラスマイナスが常に引っ付いてるんだというわけです。量子論はプラスがあれば必ずマイナスもあるということを主張しているんです。

 だから、宇宙のはじまりの一点にもプラスマイナスの揺らぎがあって、現れたり消えたりを繰り返していた。それが現実の空間として存在するには、ある瞬間からプラスの方向へずーっと広がっていかないと駄目です。時間もこのプラスマイナスであったものが、プラスの時間として流れないといかんわけです。何かの拍子でパッとリアル世界、プラスの世界になる。時間がプラスの方向に流れ始めると、空間もその段階でジューッとこう

――広がりはじめる。理屈としてはなんとなくわかるんですが…

 宇宙がはじまる前の宇宙はどうだったんですかって、よく聞かれるんですけど。

――はい。

 はじまる前はないのです。これ、説明しにくいんですけど、私がよく言うのは北極の北はないでしょって。北極に行ったら、どの方向も全部南ですね。それと同じように、時間もある瞬間から始まって、一方的に流れ出した。その以前っていうのはないんです。ないというか、揺らいでいたに過ぎません。

――あるものが出現したり消えたりを繰り返していて、たまたま、ある出現したときに消えないで、一気にワーッと広がった。

 そんな感じです。何かの拍子でそれが実世界になって広がった。その何かの拍子が何か、って言われても、それは分かりませんと言わざるを得ませんが・・・。

――何もない状態というのがなんともイメージしづらいんですが、いまのお話でいうと、何もないんじゃなくて、プラスのエネルギーを持っているものがない状態、つまり、マイナスのエネルギーを持ってるものが「ある」状態ってことでしょうか。

 そういう考え方もできるってことです。マイナスのエネルギーを持ってる状態は、われわれには認識しようがないからね。

――そのマイナスのエネルギーを持ってるものが、何かの拍子でプラスに転じた瞬間にパッと出現すると。

 何かの拍子というのは、一番簡単なのはマイナスの状態のものにエネルギーを与えること。マイナスの状態で並んでいる粒子がエネルギーをもらうと、プラスのエネルギーにポーンと跳ね上がるわけです。それでプラスになったら、われわれは認識できる。それまで並んでいたところから飛び出して穴ぼこが空いたから、この穴ぼことこの粒子の両方をわれわれは見ることができるんです。

 それも一つの非常に便宜的な考え方で本当にそうなのかどうか分からないんですけどね。ただ、そう考えると、真空中にエネルギーを与えたときの粒子のふるまいが実にすんなりと説明できるわけです。