――宇宙でなにが起きているのかというのは、ぜんぜん想像もつかないんですけど、どういう風に考えていくものなんですか。

 私自身のやり方としては、水平思考というのをよくやりました。

――水平思考?

 ある現象が全然違う条件、たとえばより大きな空間スケールで起こればどうなるかというのを考えてみるんです。私の研究の一つに「宇宙の泡構造」というものがあるんですけど。

――泡、ですか。

 地上にはたくさんの泡があるでしょう。海の波が打ち寄せても、お風呂でシャンプーしても泡ができますよね。じゃあ、宇宙で泡ができるのはどういう場合かというのを考えてみるわけ。

 泡ができるというのは、どっかでエネルギーが放出されたときなんです。エネルギーがパッと出された瞬間、たとえば池にポトンと石を落とすと泡ができるでしょう。あれは石の運動エネルギーがパッと放出されたんです。風船だってフーッと息をはくことで、エネルギーを放出するから広がるわけね。

 というふうに、泡ができる条件はエネルギーが一気に放出された場合です。それを周りの物質が取り巻いてるわけです。で、地上で一番大きい泡は何かというと原爆です。原爆のキノコ雲、あれは泡です。

――あれは泡なんですね。

 原爆とは、核の大爆発、すさまじいエネルギーの放出でしょう。大爆発でものすごく高圧のガスが広がっていって、周りの空気やちりを集めてああいう泡ができる。地球上だと上空にいくと逆転層があって、周りの圧力が上方で高くなっているから、雲が横に広がっていくわけです。

――それでキノコ状になるんですね。

 そのときに地上のごみをかき集めて広がるから、その集まった部分が雲になり、やがて雨になって降ってくる。黒い雨というのは、地上のごみを巻き上げた水蒸気が降ってきているんです。

――そういうことですか。

 地上で一番大きな泡が原爆です。太陽表面では常に爆発が起きているから、宇宙にはたくさん泡ができているだろうと思うわけです。じゃあ星が爆発したり、銀河が爆発したらどうなるのかって考えてみよう。これが水平思考です。爆発なら爆発という現象が、スケールやエネルギーの大きさといった周りの条件を変えたらどうなるかを考える。そうすると、地球上ではありえない事態が起こり得るわけです。

――それを考えていくプロセスというのは、たとえば地球上で原爆はなぜああいう形になるのかという理由から見ていって、じゃあ宇宙に行ったらどうか、そもそも空気がないよね、といった感じですか。

 そう。エネルギースケールがもっと大きい場合とか、周りに磁場があって泡が広がりにくくなっている場合とかね。高度によって密度の差がなければ、横には広がらないから、垂直方向にズボーッといくはずですよね。私はそれをチムニー、煙突って名付けたんだけど、煙突のように真っすぐ上に伸びていく泡もあるはずだと。

 もちろんそれは想像上、そういう条件を設定したらこうなりますよという話です。それが現実に存在しないと、つまり観測によって見つからないと単なる空想にすぎないわけ。科学が科学であるためには単なる空想ではダメで、それが観測や実験によって実証されなければならない。

 で、チムニーというのは僕が1989年ぐらいに提唱して、10年後ぐらいに見つかりました。

――おお!

 で、あんなものが見つかり始めるといくつも見つかるんです。ノウハウが分かるから。

――そこで初めて理論が実証されたということになるんですね。

 でも、その頃はチムニーを提唱したのは池内さんだっていうのは忘れられてしまって(笑)

――ひどい……。でも、「観測された」って言われた瞬間はやはりうれしかったですか。

 そうね。で、「あれは僕が言い出したんだよ」と言うと、ただ「そうですか」って言って素っ気ない。

 宇宙の泡構造というのも同じような考え方です。この銀河で爆発が起これば、銀河空間にウワーッと泡が広がる。それがものすごく大きなスケールで広がって、その泡の表面上に次の世代の銀河が生まれるという。壮大といえば壮大なモデルです。泡の水平思考を一番大きいスケールまで展開したらどうなるかということですね。

 たまたまその頃に、銀河が泡のような形に分布しているというのが見つかって、「泡宇宙」という言葉が一応市民権を得たんです。でも、私の理論は間違っていた。

――え、そうなんですか。

 泡のように消えたと(笑)

――……ええと、どこが違ってたんですか、先生の理論は。

 私の理論は、爆発することによって泡ができるというのが出発点で、それは原爆の泡みたいなものなんですけど、実は爆発しなくても泡はつくれるんです。エネルギーをバーンとぶち込むということは、要するにそこのエネルギーをプラスのエネルギーにして広げるということでしょう。ということは、プラスのエネルギー状態を爆発ではなくて、別の原因で作ってやれば自然に泡が広がることになる。

 たとえば物質がたくさん集まってるところと少ない場所を作ると、物質がたくさん集まってるところには万有引力が働く。みんながお互いに引っ張り合うわけ。逆に物質が少ないところは引っ張り合うのも少ない。エネルギーとしては、万有引力いうのはマイナスのエネルギーなんです。

――引っ張り合うからってことですか。

 引っ張り合う場合はマイナス。で、退け合うときがプラスなの。だから、物質の多い部分では引っ張り合って縮んでしまい、逆に物質の少ない部分では引力が弱いから広がって、泡のようなものを作ることができる。物質の分布に差をつけておけば自然にそうなる。私はその差を、エネルギーをバーンとぶち込むことによって無理やり作ろうとしたけど、もともと物質の分布に差があったとすればいいじゃないの、ということです。

――なるほど。でも、その物質の分布の差はなんで生まれたんですか。

 それは分からない。しかし、始めからあったということにすればいろいろな現象がうまく説明できる。そういうときには、じゃあ、理由はわからないけれど、とりあえずそうであると考えておきましょうというのが物理学の考え方なわけです。