日本社会はどう変わるべきか前編】

広井 良典
interview #019
持続可能な社会」ということが言われるようになって、それなりの月日が経ちました。にもかかわらず、環境破壊、少子高齢化、人びとの孤立といった問題は改善するどころか、一層深刻になっているように見えます。その背景にあるものを明らかにすべく、コミュニティという視点を切り口として、日本社会の歩んできた歴史と特徴、これからのあるべき姿について、政策研究から哲学的考察まで幅広く活動する広井良典先生にお聞きしました。
後編を読む>
  1. コミュニティと情報
  2. 農耕がもたらしたもの
  3. 農村と都市
  4. 装置」としての国家

コミュニティと情報

――今日は、持続可能な社会とコミュニティとの関係といったテーマでお話をお聞きしていければと思います。まずは人間にとってコミュニティとはそもそもどういうものなのか、といった辺りから教えていただけますか。

 わかりました。私はもともと科学史・科学哲学という文系と理系の中間のような専攻でしたので、コミュニティというのも人間だけでなく――もちろん人間に固有の話もたくさんあるんですけど――、人間が生まれるまでの生命の進化も含めて捉えるのが重要だし面白いのではないかと思っているんですね。

 そういう点でいいますと、情報」というのがひとつの鍵であり、切り口になるだろうと思います。コミュニティには情報を共有している集団という側面がありますので。思えば、コミュニティとコミュニケーションはコミュ」が共通していますよね。コミュニケーションというのは情報を伝達するということですから、そういう意味でもコミュニティと情報はつながっています。

――ちょっと意外でした。

 アメリカの宇宙物理学者にカール・セーガンという人がいて――彼はジョディ・フォスターが主演したコンタクト』という映画の原作も書いているんですけど――、その彼がピューリッツァー賞を受賞したエデンの恐竜』という本の中で情報の進化ということを言っているんですね。情報には遺伝情報、脳情報、デジタル情報という流れがあると。

 どういうことかというと、話はわりと簡単で、もともと生物というのは親から子に情報を伝達するわけです。原初の生物はDNAの中の遺伝子をバトンタッチしていくことで、親と同じような子が生まれ、親と同じような行動をする。それが一つめの遺伝情報です。

――ふむふむ

 ところが、生命がだんだん複雑になっていくと、遺伝情報だけではすべてを伝えきれなくなる。それで何をしたかというと、DNAの遺伝情報だけではなく、脳情報というものを使うようになった。脳情報というのはわかりにくいかもしれませんが、要するに個体と個体が関わりをもち、それによって情報を伝達するわけです。いちばんわかりやすいのが哺乳類。哺乳類というのは哺乳」という言葉が示すように親と子が関わりを持ち、コミュニケーションの中で情報を伝達していきます。

 たとえば魚だったら親の遺伝情報がただ子に伝わっていくだけですが、哺乳類は個体と個体がコミュニケーションをとることで、親が脳に蓄えた情報を子に伝えていくんですね。それが二つめの脳情報。

――なるほど。

 その脳情報が最高度に発達したのが人間ということになるのですが、人間の歴史が続いていくうちに今度は脳情報でも足りなくなって、話が一気に最近になりますが、コンピューターというのを作り、その中に情報を入れてやりとりするようになった。いわば脳を外部化したわけですね。それが三つめのデジタル情報で、ここから現代のネットコミュニティみたいなものも生み出されていく。要するにコミュニティは、遺伝情報、脳情報、デジタル情報という、情報の進化とともに発展してきたということがいえるかと思います。

――面白いですね! 哺乳類までの魚類や爬虫類っていうのは、子どもを産んだら産みっぱなし。

 そうです。遺伝情報を伝えたらそれで終わり。それに比べて哺乳類のやり方はまどろっこしいというか、非効率的にも見えるんですけど、ゆっくりと時間をかけて多くの情報を伝達することにより、種をつないできたということができると思います。

――ただ、そうすると今度は情報伝達の個体差というか、不確定性が出てくるようにも思えますが。

 そのとおりです。遺伝情報というのはDNAの情報をただバトンタッチするだけですから、まさに確定的というか、親と同じように育ち、同じように行動するわけですが、哺乳類や人間の場合は不確定で、言い換えると多様性ということだと思いますが、それによって複雑に発展したり、場合によっては情報の受け渡しがうまくいかなかったり、ということも起きてくるだろうと思います。

――なるほど。いずれにしても、コミュニティの基になるのは親と子の関係だということなんですね。

 そうですね。親子関係は一つの原型ではあるんですけど、当然きょうだいという関係もありますし、家族以外の個体ともやりとりをするわけですから縦、横、斜めというか、いろんな他者と関わるのがコミュニティの特徴ですね。これに関連して人間には重層社会」という特有の現象があります。

ひろい よしのり 広井 良典
京都大学こころの未来研究センター 教授

京都大学こころの未来研究センター教授。私の専攻領域は公共政策と科学哲学となりますが、大きくは「人間についての探究」と「社会に関する構想」を架橋することが基本的な関心です。そうした問題意識からこれまで行ってきたのは、第一に医療や社会保障、まちづくり、地域再生等に関する政策研究で、第二は死生観や時間、コミュニティなどのテーマに関する原理的な考察です。第三は以上をつなぐもので、「定常型社会=持続可能な福祉社会」と呼びうるような社会の構想です。