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このサイトを開設してまる6年が経ちました。つい昨日はじめたことのように思えますが、小学校の入学から卒業までと考えると、それなりの月日が流れたことに気づかされます。

このサイトを開設する前、私は広告会社のコピーライターをしていました。その際に、一般企業の案件に加えて、大学の広告や学校案内の制作に携わり、さまざまな研究者とお話する機会に恵まれたことが、このサイトの土台になっています。

トイビトをつくるとき、私はふたつのことを決めました。ひとつはすべての記事を無料で公開すること、もうひとつはサイトに広告を入れないことです。Webメディアの運営では、一部のコンテンツを有料にする(有料会員になったら記事の続きが読める等)か、広告を入れるかして収益化を図るのが一般的です。ではなぜそれをしなかったのかというと、これらの方法で仮に収益化に成功したとしても、自分がめざす状態には近づけないと思ったからです。

トイビトを立ち上げたのは、アカデミアと一般社会を架橋し、ひとりでも多くの人に「学問(問うことを学ぶ)」の意義と醍醐味を知ってもらうためでした。あらかじめ言っておくと、私はまったく学問的な人間ではありません。大学4年間でまじめに通ったのはパチンコ屋と雀荘の方ですし、「就職したくない」という理由で受けた院試に寝坊したような人間です(もちろん落ちました)。しかし、皮肉にも社会人になってから垣間見た学術研究の世界は、そんな筋金入りの劣等生を「改心」させるほどに奥深く、魅力的だったのです。こんな世界があったのか、と。

そのとき感じた面白さをひとことで言うなら、「何が正解なのか、そもそも正解があるのかどうかさえわからない」ということです。教科書の内容を理解することが学問だと思っていた私(大学で本当に何をやっていたんだと言いたくなります)は、多くの先生方がこうした前提で研究されていることに心底びっくりしました。そして、学問の本質は、答えに辿り着くことではなく、問い続けることではないかと気づいたのです。

しかし、新自由主義が席巻する現代社会において、学問は、「役に立つか否か」もっといえば「儲かるか否か」で判断されつつあります。一般の人にとっては「いい大学」や「いい会社」に入るための苦行あるいは通過儀礼のように思われているのではないでしょうか。でも、いやだからこそ、そうではない「学問」に触れられる場が必要だと思ってつくったのがトイビトです。そんな場の運営資金を、商品やサービスの対価という形で得るのは違うと思ったのです。

記事を商品に、サイトを広告媒体にすることは、それらの価値を売上やPVに還元することに他なりません。しかし、さまざまな研究者の人生をかけた「問い」や「知りたい」という情熱に触れてきた私には、それが正しいことだとは思えませんでした。人気のある分野や「役に立つ」研究しか存続が許されないとしたら、それは主体的に問うことを端緒とする学問の終わりを意味するのではないかと思ったのです。

そんなこんなでスタートしたトイビトは、幸いにも多くの研究者のご協力と温かい読者に恵まれ、ここまで続けることができています。予想通り(?)資金難に陥り、存続をかけた一昨年のクラウドファンディングでは、300名以上の方から貴重なご支援をいただき、なんとか窮地を脱することができました。資金確保の目処は今もたっておらず、頭の痛い問題です。しかし、学問が市場原理に吞み込まれること、権力に干渉させること、アカデミアと一般社会の断絶が進むことの重大性は、それとは比べものになりません。

こうした状況は深刻で、自分の無力さに打ちひしがれることもしばしばです。それでも、今すべきこと、できることは何かを問い続けながら、一つひとつ、積み重ねていきたいと思っています。「中学生」になったトイビトを、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

トイビト 加藤哲彦

2023.10.31

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