現代日本人の性的困難の構造

平山 満紀
2017.11.29

 日本人の性の歴史から見ても、現代は特に性的困難が大きい時代だと思います。夫婦やカップルのセックスレスは2000年代に入って増え、いまでは30代・40代夫婦のおよそ半分がセックスレスだといわれています。10代・20代の性交経験率が減り、性にネガティブな印象をもつ若者が増えています。現代日本は性関係をもつのが極めて難しい社会になったと言えるのですが、なぜこのようになったのでしょうか。さまざまな要因が歴史的に積み重なり困難の構造は複雑なのですが、インターネットの影響は小さくないと思います。

 日本にはこれまでにもさまざまなアダルトメディアがありました。しかし、インターネットで視聴できるアダルト動画は、その手軽さゆえに、以前のものとは比較にならない影響力をもっています。視覚によって性的な興奮を覚えるのは圧倒的に男性の特性なので、これらの動画は必然的に男性のために男性目線でつくられます。男性の作ったシナリオで女性が演技している映像は、女性の心と身体のしくみへの大きな誤解をもたらし、セックスへの考え方をひずませます。このような動画に男性が影響され、セックスに苦痛を覚える女性が増えています。本当は、日々精子を製造している男性と、月経周期をもち生命を生み出せる女性とは、性的な心と身体のしくみがまるで違い、そこにセックスの難しさも面白さもあるといえます。女性への誤解の蔓延まんえん)は根本的な問題です。

 さらに、男性がネットの刺激に慣れてしまうと、生身の女性に向かわなくなる傾向もあります。現実の男女関係は複雑で思い通りにならないことが多く、それをめんどくさい」と思う男性が、ネット上の刺激を消費して自己完結的な妄想に閉じ込もるようになっています。性は他者と最も親密になれる媒体でもあるのに、現代日本人の性は自閉的、妄想的なものに止まる傾向を強めるばかりです。インターネット技術がこのような性を強力に支えています。

 日本では近代以降、性に関する話題は下ネタとされ、表の公共の場で語るのはタブー視されるようになりました。日本の性教育はヨーロッパ諸国などに比べると、致命的といえるほど貧弱ですし、これだけ性的困難が大きくなっても公の議論はなされず、相談やサポートをする人や場所もありません。インターネットの影響は全世界的なものですが、それに呑みこまれず、アダルトメディアへのリテラシーをもち、生きた人間同士の性関係を守り続けている社会も、世界には多くあります。日本でも男女が共に性について公に議論していくために、性の学問的研究に携わる人が増え、研究が蓄積されることがとても大事だと考えます。

 日本人は古来、セックスを神聖で力に満ちたものとして尊んできました。神聖な場所に張る注連縄しめなわ)は、からみ合いながら交尾をする二匹の蛇をかたどっています。そんな地点からはるかに隔たってしまった現代ですが、人生を豊かにする性のあり方について、困難が大きいからこそ多くの方と一緒に考えたいと思います。人間は生涯性的存在で、中年の性、老年の性も重要な研究テーマです。幅広い年代の方々が研究を志すことを期待しています。

ひらやま まき 平山 満紀
明治大学文学部 准教授

明治大学文学部准教授。社会学と身体論をクロスさせた視点から「IT化による身体の変容」や「日本人の性行動、性意識、性の文化」の研究に取り組んでいる。