捻じ曲げられたジェンダー」

江原 由美子
2021.05.19

 2000年代のはじめ、日本社会ではジェンダー・バックラッシュ」と呼ばれる現象が起こりました。大雑把に言うと、保守派の政治家たちが、かれらの重視する家制度や戸籍制度といった価値観に基づき、女性の人権を擁護するフェミニズムを攻撃する運動です。そのきっかけとなったのは、1999年に施行された男女共同参画社会基本法」以下、共同参画法」)でした。

 この運動でバックラッシュ派」が槍玉に挙げたのがジェンダー」という概念です。彼らの言い分をそのまま書くと共同参画法』をつくった者やそれに賛成する者はすべて共産主義者である――画の共参」とは共産」のことである――。この共産主義者たちが使うジェンダーという言葉には、性差は存在しないという意味が含まれている。つまり共同参画法』とは、社会から性差を抹殺しようとするジェンダー・フリー法』である。よって、性差があることが科学的に示されれば、この法律や共産主義者の言うことが誤りであることが証明される」となります。

このような前提のもとでバックラッシュ派は、後述するブレンダと呼ばれた少年』の事例を持ち出し、ジェンダー・フリー派」の言い分は完全に否定されたと主張しました。しかし、はたしてこの主張に正当性はあるのでしょうか。そもそもジェンダーとは、かれらの言うように、性差を否定するような概念なのでしょうか。このことを考えるために、まずはフェミニズムの歴史から見ていくことにしましょう。

えはら ゆみこ 江原 由美子
首都大学東京名誉教授

首都大学東京名誉教授。専門は、社会学・ジェンダー研究。近現代の社会思想を、ジェンダー視点で批判的に読み解くことを試みている。